人間力だより Vol.09

 〜世阿弥に学ぶ“人間力づくり”『離見の見』(りけんのけん)〜
こんにちは、ライブウェア代表の古田です。


前回に引き続き“人間力づくり”の事例をご紹介いたします。
少しでも皆様の参考になれば幸いです。



だいぶ前の話になりますが、日本で始めてのノーベル賞受賞者の湯川秀樹博士 が、1971年に日本能率協会で『創造』というテーマで講演されました。

聞き手の大部分は日本の財界のトップ及び企業の幹部の方々であり、博士の専 門分野である理論物理学的創造性から企業経営に学ぶべき事を期待して来られ た方も多かったと思います。
しかし、予想に反して博士の専門分野のお話はほとんど無く、もっと幅広い 「創造性と人間の生き甲斐」に関するお話に終始し、人間力の大切さを説かれ ました。

その中でこんなお話がありました。


「人は誰でも、小さな発見や成功体験をしたことがあるはずです。
 しかし、当人にとっては確かに発見の喜びかもしれませんが、
 あとから考えてみると特別発見というほどのことでもなく、
 とうの昔にわかっていることだったりするものです。
 
 けれども人間とは、このように特別な発見とは言えないようなことを
 地道に繰り返していくうちに、本当に客観的な意味を持った
 (すなわち新しい)創造的発見ができるようになるものです。」


つまり創造性とは、「地道な繰り返しの学習」と「新しいことを発見するため の研究」というプロセスの中から生まれ、さらに最終的にはその人の人間力の 形成に繋がるという内容のお話をされました。


 〜日々の繰り返しの学習で培われる人間力の基礎〜

博士は小川三兄弟(博士は結婚されて湯川の姓を名乗られた)と言って兄弟三 人ともそれぞれ分野は違いますが立派な学者になっておられます。地味な繰り 返しの例として、その兄弟三人ともまだ物心もつかない四、五歳のころから毎 朝何か非常に難しい中国の古典を読まされたそうです。

これは素読(すどく)と言って、まったく意味が解らずにおじいさんのあとに 続いて読むのですが、全然わけも解らずに、あとをついて読んでいたことが、 そのうち全部ではないが一部頭に残っており、いつの間にやらその意味を理解 するようになっていたそうです。

どうやら小川三兄弟は、人間力の基礎とも言える部分を、中国の古典の素読の 繰り返しによって子供のうちに身に付けてしまったようです。

この様な博士ご自身の人間力と研究者としてのスキルづくりの入り口とも言え るエピソードも聞くことができました。


 〜会津藩の『什の掟』(じゅうのおきて)〜

さて、ここで一つ、博士のお話と同じ様に、若年の内に人間力の基本を徹底的 に繰り返し教え込んだ事例をご紹介したいと思います

私の出身地でもあります会津藩の話です。

江戸時代になりますが、例の白虎隊も教えを受けていた日新館という藩校があ りましたが、会津藩の子弟はここに入る前に必ず『什の掟』(じゅうのおきて) を完全にマスターする事が条件でした。

その掟とは次の七ヶ条です。

  ・ 年長者の言うことに背いてはなりません
  ・ 年長者にはお辞儀をしなければなりません
  ・ 嘘を言うことはなりません
  ・ 卑怯な振る舞いをしてはなりません
  ・ 弱いものをいじめてはなりません
  ・ 戸外でものを食べてはなりません
  ・ 戸外で婦人と言葉を交わしてはなりません
 

これは全て理屈抜きで「いけないことはいけません」と言っていた様です。

現代では問題があるかも知れない項目もある様ですが、とにかく若年の内に先 ず人間としての基本の基本を身につけさせ、その後に藩校に入学し小川兄弟の 様に中国の古典の素読も含めた人間力づくりを行っていた様です。


 〜世阿弥の『離見の見』〜

ところで、人間とは本当の自分を直接見ることはなかなか出来ないものです。 姿・形の物理的なものでなく心眼を開いた真の自分の外から見た姿を如何に見 るかが大切であり、これが本当の自分の人間力把握であると思います。 この人間力把握の完成の例として、湯川博士は講演の中で世阿弥の『離見の見』 というお話をされました。

世阿弥は能の完成者として幅広く知られておりますが、彼は同時に非常に優れ た思想家、あるいは芸術哲学者であり、文献も「風姿花伝」をはじめ幾つかあ ります。
その彼が晩年になり最後に到達した境地に『離見の見』(りけんのけん)という 有名な言葉があります。

世阿弥は能の名人であり、演技者です。自分の演技した能が良いか悪いかは見 物している人々が判断することであり、自己満足で決められるものではないわ けです。

悲しい場面で、真に悲しい演技を行えば観客は瞬間的にそれに反応してくれ、 また楽しい場面に対応した良い演技を行えばその様に反応してくれる。 世阿弥は“離れて見ている見物者の反応を見ながら”演技をすることを繰り返 すうちに、見物者から学び演技する境地に至ったのです。
すなわち、見る者と見られる者が一体化したことを『離見の見』という言葉で 言い表し、地道な修業の繰り返しを積み重ねた結果、外から見た自分を把握で きるようになったことを、人間力づくりの完成形に近いものとして表現してい るのです。

人間はある程度自分というものを知っているつもりですが、本当の意味で自分 を知ると言うことは、自分を外から見てどうか、つまり認識を客観化してはじ めてできることだと思います。
人間力づくりにおいては、いかに自分を客観的に見て把握することが出来るか が大切であると私も常々思っております。



現代ではIT化が進み、情報化社会になればなるほど、今すぐに必要な知識や 技術および情報を得てそれをいかに活かすかが重要視される傾向にあります。

昨今では、自分を率直に評価してくれるような人間関係(上司・同僚・友人・ 親など)もますます薄くなっており、えてして何もかも自分だけで万事解決 できるという考え方で仕事を進めた結果、様々な問題が出てくることが多いよ うに思います。
今こそ各自、組織人としての“人間力”を客観的に見て、自分の強み、弱みを しっかり把握した上で、正しい思考や行動とは何なのかを考えて仕事に活かす べきです。

人生の早い時期、また一番大切な時期に、人間力の基本を身につけさせる環境 や仕組みは少なくなりました。
また大切な時にタイミング良く正しい意見を率直に出してくれる他人も少なく なっている環境に置かれているのが今日の組織人の多くです。

その組織人に対して少しでも自己の“人間力”を『離見の見』的に観測し、 客観的に評価できるツールとして、我がライブウェア社が今から約7年前に 開発したのが【トライアングル・アセスメント】です。




ライブウェア株式会社
代表取締役
古田貞幸

人間力を可視化する
【トライアングル・アセスメント】


最適な「場と教育」を提供する
【MPIシステム】


何を学ぶべきかナビゲートする
【ラーニング・ナビゲーション】


組織の活性化を推進する
【組織活性化力診断オークス】