人間力だより Vol.15

〜企業に於ける真のOJTのありかたとは〜
こんにちは、ライブウェア代表の古田です。


先日あるTV番組で日本の老舗企業の力の源泉について放送されていました。 日本の中で、明治維新以前から現在まで続いて成功している企業は約2,400社、 明治期からになれば約28,000社もあり、これは世界のなかで群を抜いて多いと のことです。

この成功の秘訣は、ゆるぎのない基本思想の維持は勿論であるが、その思想を 脈々と維持発展させるための人から人への、歴史的「思想・技術の伝承」の仕 組みの存在である事が論じられておりました。

しかし時間の関係かどうか分かりませんが、残念ながらその「技術の伝承」と は何をどの様に行ってきたのか等の具体的方法論までのお話を聞くことが出来 ませんでした。

そこで今回は、私が経営コンサルタントとして100社以上のお付き合いをしな がら常々考えさせられていた、企業における「思想と技術の伝承」というテー マに関して私の体験した実例を交えながらお話をさせて頂きたいと思います。


私が30年以上にわたり経営コンサルタントとして活躍できたのは、お付き合い 頂いた数多くの経営者や日本能率協会の諸先輩方のおかげであることは、何回 も繰り返し申し上げてまいりました。
具体的に申し上げれば、これら諸先輩からの教えとは

 “知識とか技術と言った普遍的なもの”

ではなく、その場に遭遇したとき
 “どの様な考え方で、どの様な行動をし、どう生きるか”

と言う、人間としての生き方すなわち『人間力』そのもののことであり、これ を今で言うOJTで機会ある毎に学ばせて頂いたわけであり、今更ながらOJT の大切さを益々痛感しております。


かつて私が日本能率協会にコンサルタントとして入職したての頃、当時日本の 経済を急成長させた数多くの企業のコンサルタントとして活躍されていた 岡田潔さんという大先輩がおられました。
私も何社か氏のアシスタントとして同行し、当時は何日間も寝食を共にしなが ら氏からOJTを授かる機会に恵まれました。

残念ながら岡田さんは昭和60年に亡くなられましたが、 岡田さんの経営に対する基本的考え方の一部を、以下にご紹介いたします。

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経営とは人間が作った『生きもの』である。
生きものであるが故に命があり、個性がある。
経営が生きつづけるには、外部環境に順応し、内部環境に適応するしか生きられない。
我々人間は必ず死を迎えるが、経営は、その命も身体も差し替えて生き続けることが可能な不思議な生きものなのである。
しからば経営の命とは何か、そして経営が生き続けるためには、何をどう考え、どうすべきなのか。
その経営の実態的『生きざま』を追求していくのが真の経営活動であり、そのためには人間を大切にするその会社の独創的経営づくりをしなければならない。
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〜『管理技術』と『プロセス技術』〜

常に経営をする時に必要な技術には二つあります。 この二つの技術を『管理技術』と『プロセス技術』(経営コンサルタントの世 界では『調査技術』)と称してきました。

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〜『管理技術』とは〜
品質管理・原価管理・生産管理・販売管理・購買管理・その他、経営管理 上の管理機能とか管理の項目別に管理の考え方、管理のシステムやその運 用について一つの普遍性や共通性を追求する技術体系であり、これは経験 に基づく知識として身につけて行けるもののことです。
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〜『プロセス技術』とは〜
経営の課題解決・経営革新・長期経営計画・経営戦略等に対して、これを 実施することを通じて具体的成果を出してゆく技術のことです。
すなわち、『管理技術』が解決手段としての技術体系であるのに対して、 プロセス技術はその企業に合った『管理技術』を生み出し、それを適用し てその実施を通じて具体的な成果を出す為の技術のと言えるでしょう。
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この二つの技術を如何に身に付けさせられるかを考えた場合、『管理技術』は 知識同様に集合教育や自主学習を主体に考えるべきですが、後者の『プロセス 技術』の場合は、まさにその場に遭遇したときにどのように考え、行動するか といった『人間力』づくりの領域であり、これを完全に体得するためにはどう してもOJTに頼らざるを得ません。

この真のOJT教育を成功させる為には基本的な二つの条件が必要となります。

1.受けるサイドが受け入れようとする基礎が出来ていること
2.教える側に教える資格が存在すること

であり、この辺が真のOJTを成功させるための重要な要素である『人間力』 ということになります。

これは、誰が考えても極々当たり前のことのように思えるのですが、昨今、こ の基本的二つの条件が出来ていないことが大きな悩みとなっているのが多くの 企業の実態のようです。そうは言っても何か手を打たなければならないので、 色々な教育カリキュラム、管理者教育等、基本的には知識、管理技術の教育が 重点的に行われているものの、企業の活性化に本当に必要な『プロセス技術』 教育が手薄になってしまっております。


これに対して岡田さんはいつも次の様に言われておりました。
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実施事項を本当に成功させるためには、新しい経営管理の考え方や技術ばかりを追求してもだめである。
経営の機能や権限についての新しい取り組み方、さらには組織の基本目的をどう決定し、どう実施するかについての革新が要求される。
すなわち組織の効果性とは、環境の変化に対し、将来の戦略と行動を適合させ、組織の人的資源の貢献を最大にすることが最も大切である。
そのためには、人的資源の質的面を重視し、ルーティン・ワークの能力のみでなく、革新的能力も含めた全社員のコンピタンスを高め、それを如何に組織化するかが最も重要であり、経営者・管理者の大きな仕事である.
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さて、ここで私自身が身をもって体験したOJTの事例をご紹介したいと思い ますが、これまでにお付き合い頂いた多くの経営者、先輩及び社員の皆さんか らOJTとして受けた貴重な具体的事例を、一つ一つ取り上げればそれこそ分 厚い書籍が何冊あっても足りない程です。

そこで今回は先にご紹介しましたコンサルタントの先輩である岡田潔氏から受 けた数多くのOJTの事例の中から、2つばかりご紹介することにします。


【その1】〜真実を掴むためのインタビューとは〜

岡田さんのアシスタントとして一番最初に仕事をさせて頂いた時のことです。 クライアント企業の現状把握・資料分析を一通り終わり、企業の真の実態を把 握すべく、管理職以上全員のインタビュー計画作りを会社の事務局と共に行い 岡田さんに提出したところ、即座に「やり直せ」と突っ返されました。 インタビューの基本である課長⇒部長⇒担当役員⇒トップ迄等の、順序は一応 踏んだつもりでしたが、先方の都合等で順序が逆転していたところが幾つかあ った事が原因でした。

まだ新米のコンサルタントとは言え、この事実を平気で提出した自分に当時大 きなショックを受けましたが、それから30年以上年数が立てば立つほど事の 重大さとOJTの大切さを益々感じる次第です。

その時のOJTを簡単に纏めてみれは、次の様なことであったのだと思います。

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「インタビューは技術である以上に、スキル,コンピタンス能力そのものが大切である。」
「インタビューは単なるヒアリングではない。」
「ほんとうに企業が問題としているのは何か、これは経営幹部によって 意見や表現が異なることも多く、その背景にある認識も理解の程度も 異なっていることが多いからである。
従って、先ず下のほうからきちんと現状を正しく聞き出し、その上で 順に上位に逆上って真の情報をとりながら分析しなければならない。
この辺をどう聞き出すかは、こちらの信頼度の程度による。この人に なら意見を述べる価値があると思われることであり、一般的に意見を 述べることは事実を述べるより難しいことなのである。」
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結局、信頼関係作りの大切さ、真の実態の把握とは正しい現状把握とそこに関 係する人の思い、さらにインタビュー即関連分析の展開等のスキル,コンピタ ンスを学ばせて貰いました。

【その2】〜鰺の開きと言えども〜

岡田さんのご自宅は逗子の山の上にありました。
お酒の大好きな岡田さんとは、仕事が早く終わった時又は事務所での打合せで 帰りがてら近くで一杯行ったあと、何回か「俺の所で飲もう」と逗子までタク シーを飛ばしてご自宅に伺って夜遅くまで御馳走になった事がありました。

ご自宅に向かう途中、いつも逗子のある所で決まって「一寸待ってくれ」とタ クシーを止め、ある魚屋(30年も経った今でも覚えておりますが確か『魚時』 と言う名前だった)に入り小さな包みを抱えて来られました。

この包みを私の帰りがてら
「遅くまでご苦労さん。これ奥さんに渡して出来るだけ早く食べる様に」 と鰺の開きを渡して下さいました。

いただいた鰺の開きは、形はやや小さめでしたが本当にそれまで味わったこと の無いくらい美味しいもので、岡田さんに家で飲もうと誘われる一番の楽しみ になっている程でした。

後でその事を岡田さんに告げると、この鰺の開きの美味しさの要因を次の様に、 ある仕事のタイミングに合わせて答えてくれました。

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「あの鯵の開きは何故美味いか。あそこの店は自分で毎朝舟を出して鯵を獲り、 それもその日販売する量しか獲らない。
獲れば直ぐに未だ生きているうちに その日の夕方までに販売する量の開きを作り、 必ず夕方までに売り切ってしまう。
何故夕方までに売り切ってしまえるのかと言うと、 それは固定客に守られており、 それに合った規模を常に維持しているからだ。
君が自宅の吉祥寺近辺で買う鯵の開きは、 先ず高く売れる生で売り、売れ残った物も入れて開きを作るため、 食いごろを逸したものもあり不味いのだ。」
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つまり、計画の大切さ、真の品質管理とは、顧客志向とは、経営の適正規模と は等の経営管理のあり方を身近な事例でOJTを受けたことが思い出されます。

そういえば昼過ぎに一杯飲んで、「俺の家で飲もう」と言って東京からタクシー に乗る前に必ず電話をしておられたのを思い出します。
多分、『魚時』に私に帰り持たせるための鯵の開きを売り切れないうちに、 あらかじめ注文されておられたのだと思います。

今更ながら頭の下がる思いと同時に岡田さんからの数々のOJTに感謝してお ります。



ライブウェア株式会社
代表取締役
古田貞幸

人間力を可視化する
【トライアングル・アセスメント】


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【ラーニング・ナビゲーション】


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